業務用エアコンの選び方

工場向け業務用エアコンの選び方と空調能力計算の基本:効率的な温度管理のポイント

業務用エアコンの選定は、工場の規模や環境、業務内容によって異なります。適切なエアコンを選ぶことは、従業員の快適さや製品の品質に直結し、エネルギーコストの削減にもつながります。この文章では、工場での業務用エアコンの選び方について、考慮すべき要因、種類、具体的な選定手順、参考となるデータや表を使って説明していきます。

1. 業務用エアコン選びの基本

エアコン選びの要素

エアコンを選ぶ際に考慮するべき主要な要素は以下の通りです。

  • 工場の広さ:エアコンの能力は工場の床面積に応じて適切なものを選ぶ必要があります。特に天井が高い工場の場合、体積が増えるため、一般のオフィスよりも高い冷暖房能力が求められます。
  • 機器の発熱量:工場内で使用されている機械や装置の発熱量も、エアコンの冷却能力に影響を与えます。
  • 作業員の数:作業員が多いと、人体からの発熱や湿度の影響で工場内の温度が上昇しやすくなります。従って作業員の数もエアコン選定の要素になります。
  • 製品の性質:製造される製品が温度や湿度の変化に敏感な場合、その管理が重要です。例えば、食品工場では温度と湿度の精密なコントロールが必要です。
  • 外部環境:工場の立地環境(地域の気温や湿度)も重要です。たとえば、北海道と沖縄では気候が大きく異なり、必要なエアコンの性能も変わります。

設定温度と効率性

エアコンは、設定温度を過度に低くすることで消費エネルギーが急激に増加します。推奨される夏季の室温は26℃〜28℃、冬季は18℃〜20℃です。これを守ることで快適さと省エネを両立できます。

2. 工場の種類別に見るエアコンの選び方

工場の業務内容に応じて、エアコン選定の基準が変わります。以下は代表的な工場の種類別に選定のポイントを説明します。

食品工場

食品工場では、温度と湿度の管理が非常に重要です。特に生鮮食品を扱う工場では、低温での管理が必要になります。湿度が高くなるとカビや菌が発生しやすくなるため、除湿機能も重視されます。

  • 推奨温度:0℃〜20℃(作業内容に応じて変動)
  • 推奨湿度:40%〜60%

精密機器工場

精密機器を製造する工場では、温度だけでなく、湿度や静電気の管理も重要です。温度や湿度が安定しないと、製品の品質に影響を与える可能性があります。

  • 推奨温度:20℃〜24℃
  • 推奨湿度:40%〜60%

化学工場

化学工場では、反応性の高い物質や危険物を扱うことがあるため、温度管理が特に重要です。特に高温になりすぎないようにすることが求められます。

  • 推奨温度:15℃〜25℃

3. 業務用エアコンの種類とその特徴

業務用エアコンには多くの種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。以下に代表的な業務用エアコンの種類を紹介します。

1. 天井カセット型

天井に埋め込むタイプのエアコンで、広い空間に対して均一な冷暖房を行うことが可能です。オフィスや商業施設、比較的小規模な工場に多く使われます。

  • 利点: 空間を有効活用できる。デザイン性が高い。
  • 欠点: 高天井の工場では効果が薄いことがある。

2. 壁掛け型

比較的小型のエアコンで、狭いスペースに設置が可能です。部分的に冷やしたい場所に適しています。

  • 利点: 設置が容易。コストが比較的安い。
  • 欠点: 大規模な工場には不向き。

3. 床置き型

床に置くタイプのエアコンで、冷暖房能力が高いため、大規模な工場でも使用されることが多いです。高天井の工場や作業エリアに特に適しています。

  • 利点: 広い空間に対応できる。
  • 欠点: スペースを取るため、設置場所に注意が必要。

4. ダクト型

ダクトを通して広範囲に冷暖房を行うタイプのエアコンです。工場全体を効率的に冷暖房したい場合に適しています。

  • 利点: 広範囲を効率的に冷暖房できる。音が静か。
  • 欠点: 導入コストが高く、設置工事が大がかり。

4. 空調能力(冷暖房能力)計算の基本

空調能力の計算では、主に以下の要因を考慮します。

  1. 工場の広さ(床面積)
  2. 天井の高さ(工場の体積)
  3. 内部負荷(機器からの発熱量、作業員の発熱量)
  4. 外部負荷(外気温の影響、断熱性)
  5. その他の要因(窓の面積、日射、換気量)

これらの要因を適切に考慮し、エアコンの冷暖房能力(kW)を算出します。

工場の広さによる基本計算

工場の床面積に基づく冷暖房能力の計算は、最も基本的なステップです。一般的に、1平方メートルあたり約80Wの冷房能力が必要とされています。したがって、床面積が大きいほど高い冷暖房能力が必要になります。

計算式:

必要冷房能力 (kW) = 工場の床面積 (m²) × 80W ÷ 1000


工場の床面積が1000m²の場合、必要な冷房能力は次のように計算できます。

  • 必要冷房能力 = 1000m² × 80W ÷ 1000
  • 80kWの冷房能力が必要です。

天井の高さによる体積考慮

工場では、天井の高さも重要な要素です。天井が高い工場は、空間全体を均一に冷やす(または暖める)ために、より大きな冷暖房能力が必要となります。高天井の場合、通常の冷暖房能力に対して1.2倍〜1.5倍程度の調整が必要です。

計算式:

必要冷房能力 (kW) = 基本冷房能力 × 高さ補正係数

天井の高さ補正係数
2.5m〜3.0m(標準)1.0
4.0m1.2
5.0m以上1.5


1000m²の床面積の工場で、天井高さが5.0mの場合、補正係数1.5を適用します。

  • 基本冷房能力 = 1000m² × 80W ÷ 1000 = 80kW
  • 天井補正後の冷房能力 = 80kW × 1.5 = 120kW

内部負荷の計算

工場内の機械や装置の発熱量も空調能力に大きく影響します。発熱量の大きい機器が多数設置されている工場では、これを冷却するための追加の冷房能力が必要です。

機器の発熱量計算

各機器の消費電力を元に、発熱量を計算します。
機器の発熱量は消費電力のほぼ全てが熱として放出されると仮定します。

計算式
機器の発熱量 (W) = 消費電力 (kW) × 1000


工作機械50台、消費電力が1台あたり5kWの場合:

  • 1台の発熱量 = 5kW × 1000 = 5000W
  • 50台の発熱量 = 5000W × 50台 = 250,000W(250kW)

作業員の発熱量の計算

作業員が多い場合、人から発生する熱も空調負荷に含める必要があります。一般的に、成人1人あたりの発熱量は約100Wとされています。

計算式:

総発熱量 (W) = 人数 × 100W


100人の作業員がいる場合の総発熱量は次の通りです。

  • 総発熱量 = 100人 × 100W = 10,000W(10kW)

外部負荷の計算(外気温や断熱性)

工場が立地する環境や建物の断熱性も冷暖房能力に影響を与えます。窓や壁、天井からの外気温による熱の流入を考慮し、これを冷暖房能力に反映させる必要があります。

壁や窓からの熱の流入

外壁や窓からの熱流入は、以下のように計算します。特に、窓面積が大きい工場では日射の影響が大きいため、ガラスの断熱性も重要です。

計算式
熱流入量 (W) = 壁(窓)面積 (m²) × 温度差 (℃) × 熱貫流率 (W/m²K)

壁・窓の素材熱貫流率 (W/m²K)
コンクリート壁2.5
ガラス窓6.0
鉄板(工場壁)5.7


100m²のコンクリート壁、外気温が35℃、室内温度が25℃の場合:

  • 温度差 = 35℃ – 25℃ = 10℃
  • 熱流入量 = 100m² × 10℃ × 2.5W/m²K = 2500W

総冷房能力の計算

以上の要素を全て合計して、総冷房能力を算出します。

総冷房能力の計算式:

総冷房能力 (kW) = 床面積の冷房能力 + 機器の発熱量 + 作業員の発熱量 + 外部負荷


床面積が1000m²、機器発熱量250kW、作業員100人、外壁からの熱流入が10kWの場合:

  • 床面積による冷房能力 = 1000m² × 80W ÷ 1000 = 80kW
  • 機器の発熱量 = 250kW
  • 作業員の発熱量 = 10kW
  • 外壁からの熱流入 = 10kW

総冷房能力 = 80kW + 250kW + 10kW + 10kW = 350kW

空調能力の最終調整

計算結果を元に、エアコンのタイプや台数を選定します。大型工場では、1台で全てをカバーするのではなく、複数のエアコンをゾーンごとに配置し、温度や湿度を最適に管理することが多いです。また、季節ごとの外気温の変動や、工場内の業務内容の変化も考慮に入れる必要があります。

5. 実際のエアコン選定例

ここでは、1000m²の工場で、50台の工作機械、100人の作業員がいる場合の冷房能力を計算してみます。

  1. 床面積に基づく冷房能力: 80kW
  2. 機器の発熱量: 250kW
  3. 人体の発熱量: 10kW

合計すると、必要な冷房能力は80kW+250kW+10kW=340kW80kW + 250kW + 10kW = 340kW80kW+250kW+10kW=340kW

この数値に基づいて、340kWの冷房能力を持つ業務用エアコンを選定します。

6. エネルギー効率とコスト管理

エアコンの消費電力は運用コストに直結します。最新の業務用エアコンは、インバータ技術や高効率コンプレッサーを採用しており、エネルギー効率が向上しています。特に電力消費の多い工場では、省エネ性能の高いエアコンを選ぶことで、長期的に運用コストを抑えることが可能です。

エネルギー効率の指標

エアコンの省エネ性能を表す指標として「COP」(Coefficient of Performance)が使われます。COPは、エアコンが消費した電力に対して、どれだけの冷暖房能力を発揮できるかを示す指標です。例えば、COPが3.0の場合、1kWの電力を消費して3kWの冷暖房を行うことができます。COPの値が高いほど、省エネ性能が高いと言えます。


工場の業務用エアコンを選定する際には、工場の広さや天井の高さ、機器や作業員からの発熱量、外部環境からの熱流入など、複数の要素を総合的に考慮する必要があります。これらを適切に計算し、エアコンの能力を正確に選定することで、効率的で快適な空調環境を実現でき、長期的にはエネルギーコストの削減にも繋がります。